坊主とBOSEと永さん

 いささか旧聞ながら永六輔さんのエピソード。

 永さんの講演の公開番組中継録画をさせていただいたときのこと。永さんは、普通はアシスタント・ディレクタ(AD)かフロア・ディレクタ(FD)がやる講演の「前説」をご自分でされる。何のマエブレもなくいきなり登壇して、「みなさん、こんにちは!」とやる。MC(司会者)もカメラマンもビックリである。満員の観客はもちろん大喝采だ。

 あるとき、会場に少し(声が)聞こえにくいところがあるのでスピーカーが増やせないかとのリクエストが永さんからでた。こういうときの答えは、もちろん「イエス」か「はい」である。早速スタッフがBOSEというメーカーのものを用意する。このメーカーの機器は、スペースシャトルに採用されて、宇宙にいったスピーカーとして有名だ。
 インカムから伝わる準備OKの知らせで、舞台の袖ごしに永さんへ「BOSEの準備ができました!」とお知らせする。すかさず永さんが、「いまBOSEの準備ができましたと連絡がありましたけれど、BOSEというのはスピーカーなんですね。あーあー。聞きやすくなりましたか。ちなみに私の生まれた家はお寺です。お寺には坊主がいます。父は坊主です。」とやつぎ早に繰り出す。
 会場はすっかりリラックスムードに包まれる。この体制のまま、VTRが静かにまわり自然体で収録が進行する。

 これはもう仏様ならぬ神業である。(合掌)