ITがとりもつ小さな交流

 家人の誕生日祝いで、少し有名な赤ワインを買った。
 少し前のバレーポール世界選手権で、プレスセンターのディレクタをしたことを思い出した。

 プレスセンターは、文字通り世界中のマスコミから派遣された記者たちが行う取材や社との通信をフルにサポートする。サンタクロースに「売切れ」がないように、プレスセンターに「不可能」という文字はない。記者が持ち込んだ機材やノートPCが、インターネットにつながらないという事態にも対処する。プレスセンターは、このほかに試合の結果を迅速にFIBV(国際バレーボール連盟)に送る役割も担う。

 現在もそうなのかは不明だが、その頃のFIBVのデリゲータや記者のPCは、移動、酷使、移動の連続で満身創痍の状態だ。通信プロトコルの再設定など、うっかり触れるとたちまち基本ソフトがフラフラする。そこで急遽、とくにEU圏からやってきた記者に向けて臨時のPCクリニックをプレスセンター内のすみに開設する。たちまち、周辺のホテルからみんなうわさの聞きつけてやってくる。
 彼らが持ち込むノートPCは、英語表記のほか様々な言語で立ち上がる。ロシア語もあればいまだにわからない言語もある。しかし、メニューやポップアップのレイアウトは同じなので何とかなってしまう。
 このときばかりは、数人のスタッフと昼夜兼行の仕事となった。プレスが私たちにつけたニックネームが「ジーニアス」だ。

 大会の最終日。プレスセンターの後片付けをしていると、数人のデリゲータと記者たちが現れた。もう終わりだというと、今日はプレゼントだと何本もの上質のワインを手にしている。葡萄色のワインとともに、彼らの体温のぬくもりが届けられた。

 今回、偶然にみつけて買ったロマネのようなワインを手にすると、いつもその日のことを思い出す。
 人生は、毎日が一期一会。あるとき、毎日のように話し仕事をしたとしても、ひとたび別れを告げた後、一生、出会うことのない人の方が多いのだ。