芝浜

東京 芝の増上寺の春は満開の桜でいっぱいだ。
このあたりは、東京タワーの根っこの部分で以前は墓地。

その前は、そもそも海岸だ。
元のNHKがあった愛宕神社あたりが海に突き出た岬だったという。
それが、江戸時代に大規模な埋め立てが行われて現在の地形の基礎が作られたらしい。
この経緯は、中沢新一氏のアースダイバー(講談社刊)に詳しい。

古典落語の名作「芝浜」の舞台となった芝浜は、現在の新橋から田町辺までの浜の総称。
海岸だった頃の風景の描写は、三代目桂三木助の手による噺が傑出している。
亭主(勝五郎)が女房に起こされて芝浜の河岸に行き、日の出を迎え、革財布を拾って駆けもどるくだりを、たっぷりと叙述する。潮風の香、しだいにあけてゆく空の色合い、沖合の漁からもどる帆掛け船など風情たっぷりの情景描写が克明で、それが名人芸となっている。

その絶景が、いまは桜の名所となっている。
この地は、桜と電波塔と前方後円墳が共存するとても不思議な空間である。