「パパいる」「パパいらない」 

 毎年、この季節になると、なぜか思い出すことがある。

 それは、大学やメディアの仕事で海外を行き来していたときのお話。いまはもう大学生の娘は、まだ幼く、その頃の彼女は家にかかってきた電話に出たくて仕方がない。
 ある日の午後、私の悪友が電話してきたときのこと。TVドラマの台本風に書くと、こんな感じだ。

 プルプルプル♪(リビングの電話が鳴る)
 (幼い娘、背伸びをしてワゴンに置かれた電話の受話器をとる)
 むすめ「はぁい、○○○○です。」 (天真爛漫だ)
 悪友 「もしもし、アッ、○○ちゃん(むすめの名前)パパいる。」(ノウテンキだ)
 むすめ「パパぁ?」
 悪友 「うん、パパいる。」
 むすめ「パパ いらない。」
 悪友 「・・・」

 もちろん悪友は、私が家にいたら電話を替わってほしいといっているのだが、わが娘は、普段から夜討ち朝駆けで、いつ家にいるのかもわからず、頼りにならない親父は「もういらない」というのである。

 この電話は、家内に取り次がれ、一部始終を悪友から聞いた彼女は、涙がでるほど大笑いをしたという。
 このときも私は渡航中で、この話を国際電話で聞いたものだから、もはや心穏やかではない。私にとっては、一大事件だ。遅ればせではあるが、早速、娘に電話をかけたり、ロンドンのハロッズで娘の洋服を買ったりと奔走したのは言うまでもありません。猛烈反省。

 世の親父諸兄。ちょい不良(わる)親父をきどっている場合ではありませんヨ。